~乳幼児期に大切なこと~
障がいの早期発見・早期療育は、日本でも普及しています。乳幼児健診や病院での早期診断に続いて、運動機能については理学療法士や作業療法士による訓練が、視覚や聴覚については視能訓練士や言語聴覚士、特別支援学校(視覚・聴覚)の教員による訓練・指導が行われています。また、保育士を中心として、小集団での指導が定期的に行われる場や、障がいの重い子どもを受け入れている保育所も少なくありません。
私は、1975年に国立特殊教育総合研究所に就職して以来、乳幼児期からの教育相談を継続する機会に恵まれました。また、肢体不自由児通園施設での保育や、知的障がいのある子どもの保育を垣間見る機会がありました。最近は、みなと舎のかかわり相談で、高等部を卒業して何年も経過している人の種々の問題に出会います。
私の経験は限られたものですが、最近考え始めているのは、日本の早期療育の中には、大きく改めるべき点があるのではないかということです。障がいの重い子どもの状態が少しでも良い状態に早くなってほしいと親御さんが願うのは当然ですが、訓練や指導に携わるスタッフが、有効だと言われている訓練法やこれまで続けてきた指導内容に頼りすぎている感じがあります。その結果、障がいの重い子どもから見ると、「分かりにくい状況で、一方的に体を動かされたり、何かをやらされたりする」ことが多くなるように見受けられます。このことは、一人一人の子どもの自律性を育てることにはつながらないのではないでしょうか。
このように、子どもが自ら少しでも動いて、その結果として生じる感覚(触覚・視覚・聴覚・味覚・嗅覚・体性感覚)を受け止めることが、能動性や自律性の基礎を創っていくことにつながると考えられます。
つまり、障がいの重い子どもに対して、「大人が刺激を与えて、何かが分かるようにする/できるようにする」ことも一方では必要なことですが、それ以上に大切なことは、子どもが使える感覚運動系を用いて探索活動を少しずつ展開し、それを周りの大人が支えることだと思います。後者に軸足を置いたかかわりが乳幼児期に行われれば、周囲に対して感覚を閉ざしたり、人とのかかわりに対して拒否的になったりすることはかなり避けられるのではないでしょうか。早期療育において、「健康作り」と「探索活動」が主要なキーワードになることを願っています。
(まほろばサークル協力者 松田直 元群馬大学教授・高崎健康福祉大学教授)